1500キロのドライブも終わり、レオンを出発してから2日後の2005年6月19日アメリカ国境に辿り着きました。
入国用の車のレーンが10個くらいあって、空いていたレーンに行くと移民局の人に「国籍は」「なぜアメリカに来たのか」「車の持ち主は誰か」など色々と聞かれ、メキシコからアメリカに入国したことは何度かあるけどパスポートを照会したり、以前にも増して入国審査が厳しくなっていることは明らかでした。
入国手続きをするために車を一旦停めて、移民局のオフィスに行き、Visa Waiver Program(日本やイギリスなどの国籍の人は90日以内なら基本的にビザなしで入国できるプログラム)の申請をしたいことを担当官に伝えると、またもや「なぜアメリカに来たのか」「メキシコでは何をしていた」「いくらお金を持っているか」など色々と聞かれました。挙句の果てには現金を見せろと、これまで経験したことがない対応に一抹の不安を覚えつつドル紙幣を見せると、ドル紙幣と一緒に持っていたSocial Security Number(SSN、社会保障番号)の封筒に担当官の眼が留まったのが、今考えると悪夢の始まりだったのかもしれません。
SSNはアメリカ国籍を持つものなら誰もが持っている税金の申告等に必要なもので、外国籍の人でもアメリカで働いている人はSSNを持たなければなりません。移民局の担当官は神経質の極みと言うか、融通が利かない堅物のような人で、誰が見ても私を入国上問題のある人物扱いしているのは間違いありません。過去に質問されたことがプライベートなことまで根掘り葉掘り聞かれ、Visa Waiver Programの申請用紙をもらうどころか私の出入国履歴を調べ、挙句の果てには厳重に入室を管理された移民局の事務所内の別室での対応となりました。
別室に呼ばれることになるとは想像もしていなかったし、1日以上監禁された友達の父親の話を聞いていたたので、自分がどうなるのか恐怖心に満ちていました。「アメリカに入国できないのならメキシコに帰る」「何が問題なんだ」と言いたくなったり、何とも表現しにくい精神的な不安を覚えたのは確かです。
別室では担当官の上司らしい人がいて、担当官が私のことを説明しています。
上司にも同じ質問をされ、その間も担当官は横槍を入れてきましたが、上司は結局「何が問題なんだ」と吐き捨てて、その場を立ち去ってしまいました。上司が問題ないと言ったのだから申請手続きに入るのかと思ったら、今度は車がどこにあるのか担当官は聞いて来るのでありました(既に何度も車のある場所を説明したのにかかわらず...)。
車を停めた場所に行くと、担当官は彼の神経質さをさらけ出すかのように、ダッシュボードやら荷物を空けては詳細に調べ始めました。
既に移民局に着いてから1時間以上経過していたし長旅で疲れていたこともあり、この頃の私は担当官の対応に呆れてしまうしかありませんでした。その調べ方はハッキリ言って異常以外の何ものでもなく、いつまでも調べていそうなので途中で「何を探しているのか」を担当官に聞きたくなる自分を抑え、横で麻薬犬を使って他の車を麻薬がないか調べている人も呆れて担当官を見ていたと感じたのは私だけでしょうか。
ちなみに横に停まっていた車は麻薬犬の反応があったのか、車のいたるところを調べています。ダッシュボードやタイヤはもちろん、麻薬が入りそうなあらゆる空間を詳細に調べている姿は、空手が習うにはどうすればよいかなど個人的なことを聞いてくるメキシコでの対応とは全く違いました。
荷物を調べ始めて30分以上経った頃に、担当官は別の移民局の人に私の説明をしているようで、彼も上司と同じようなことを担当官に言ったためか担当官もようやく諦めたようで、移民局の事務所に連れて行かれ、やっと入国の許可を得ることができました。
これまでの間終始、他の移民局の人も私に何が問題あるのかと言うような態度で担当官を眺めていたと感じていたので、入国のための費用を支払う際に別の人に「こんな経験をしたことがない。今後アメリカに入国できないなんてことにはなりたくないから、何か問題があるのか率直に教えて欲しい」と尋ねると「彼(=私の担当官)は単に自分の仕事をしている。ただそれだけだから、問題はない。私が言えるのはそれだけだ」と言う何ともお役所らしい回答しか得られませんでした。
無事に入国して分かったのは担当官によって全く対応が異なるということで、入国する上で問題のない人でも入国を拒否される可能性があるだろうし、一度トラブルを抱えたらある程度英語を理解して話せないと、地獄のような経験をすることになりそうです。
私の担当官は身体的な障害を持っていたので、かなり英語が聞きづらく苦労したのですが、もしかすると何度も聞き返した私に腹を立てたのが、今回の悪夢の真のきっかけだったのかもしれません。(念のため)もちろん担当官を差別するとか蔑視するつもりで聞き返したつもりはありません。
以前ある日本人がカリフォルニアの英語は早くて理解できない、テキサス人(テキサンと呼ばれる)の英語は聞きやすいとか言っていたけど、個人的には何故かテキサス人の英語は聞きづらいのは確かなんです。
今回の経験をどのように捉えるかは別として、なかなか誰もが経験できないことを経験したことは確かで(そんな眼に会いたくないと言われそうだけど)、今回のことをネタに友達と旨いビールを飲めそうです。